鳥居正宏のときどきLOGOS

EU宗教政策諮問委員会(Y.S.E.E.)メンバー、アムネスティ・インターナショナル会員、社会民主党党員の鳥居が、政治・社会・文化・国際問題などについて、時々に感じることを個人的に書き綴ります。 (C)無断転用・無断転載不可。全ての記事の著作権は鳥居正宏にあります。

ひと月に、2〜3回書き込むつもりで始めたこのブログですが、ナンヤカンヤで、すでに5回も書き込んでしまいました。で、今回は6回目。ちょっと小難しいお話しです。ごめんなさい。そのかわり次回の「これを言いたい!」(8月1日掲載予定)は、とても「詩的」でとてもステキなお話しにします。


さて本題。
『日本国憲法』で、第9条(非武装・戦争放棄)や第20条(信教の自由)、第21条(表現の自由)ほどには注目されていませんが、私には、たいへんこだわっている条文があります。それは第98条です。その原文は、


第98条 [憲法の最高法規性と条約の遵守]
(1)この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部または一部は、その効力を有しない。
(2)日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。


とあります。この(2)でいう「締結した条約及び確立された国際法規」というのは、いわゆる『国際法』のことです。『国際法』という名の法律が存在するわけではありませんが、国際的な条約や、国際的に大きな影響を及ぼす取り決めなどを総合して、法律用語で『国際法』と名づけているのです。


『国際法』と呼ばれるものには、例えば『国連憲章』や『世界人権宣言』『国際人権規約』『国際難民条約』、それから戦争時のルールを決めた『ジュネーブ諸条約』及びその『追加議定書』などの、たくさんの条約や憲章、規程(規定)、国際的な取り決めがあります。


『日本国憲法』では、第98条でまず「この憲法は日本国最高の法規だ」と宣言し、そのすぐあとで間髪を入れずに「国際法を誠実に守りなさい」と定めているのです。この「最高法規宣言」の直後に「国際法遵守」の義務を述べているところに、憲法上での国際法遵守義務の重要性があります。


西欧諸国では『国際法』に関する最低限の基礎については、自国の憲法と同様に義務教育で習うそうです。しかし日本では、大学へ行っても、専門に法律を専攻しなければ『国際法』という名前すら知らない、という人がほとんどです。


なぜでしょうか?
そしていままで、日本政府は『国際法』を守ってきたのでしょうか?


その答えは、いままで日本政府は『国際法』をあまり守ってきたことがないのです。ですから国民に『国際法』の存在が知られるとマズイ(政府の「悪どさ」が国民に知られてしまう)ので、国民には、わざと教えない。いまの政府による「国際法を国民に教えない教育」というのは「国策教育」でしょう。これでは、全うな国際社会の一員だとはいえませんね。


とくに最近の日本政府には国際法違反が多く、国連を大激怒させたことすらあるのです。近年のいくつかの例を以下に示します。


【その1】
2003年にイラク戦争がはじまりました。これは、アメリカによる先制攻撃ではじまったものです。しかし『国連憲章』では「先制武力攻撃」を厳しく禁じています(『国連憲章』第1条の4)。またアメリカ軍は、イラクの市街地を空爆しました。しかし『ジュネーブ諸条約(追加議定書)』では、文民(一般市民の)保護を規定し、これに対する攻撃は厳しく禁じています(『第1追加議定書』第51条)。ですから市街地空爆などはもってのほかです。さらにアメリカは、クラスター爆弾や劣化ウラン弾など、人体と環境に著しい悪影響と後遺症を及ぼす兵器を使用しましたが、これも『ジュネーブ諸条約(追加議定書)』では、人体と環境に必要以上に悪影響を及ぼし、苦痛を与え、後遺症を残すような兵器の使用は禁止しています(『第1追加議定書』第35条など)。さらにアメリカは、捕虜に虐待をしていることも暴露されました。これは『ジュネーブ諸条約(追加議定書)』での捕虜の取り扱いに関する規定(『第1追加議定書』第44条、『第2追加議定書』第4条、同第5条など)はもちろんのこと、『世界人権宣言』(第5条から第9条)や『国際人権規約』(「A規約」第5条、「B規約」第5条、同第7条、同第10条など)にも違反していることです。


これらの、数々のアメリカの卑劣な蛮行、悪行三昧については、ブッシュ大統領を国際刑事裁判所(ICC)へ告訴し、彼に終身刑を課そうということが、いまEU諸国内の多くの法学者たちによって調査・検討されています。ブッシュはいま、これをいちばん怖がっているとのことです。


このようにアメリカは、ことごとく国際法に違反ばかりしているのです。そのアメリカの国際法違反の手助けをしたのが、日本の自衛隊です。日本政府は、国際法違反者であるアメリカからの要請で自衛隊を派遣しました。けっしてイラクや国連からの要請ではありません。「国際法に違反しているアメリカの要請で」自衛隊はイラクへ行ったのです。これは明らかに「国際法違反幇助」(つまり同罪)ですね。よって自衛隊派遣は、国際法違反であるばかりではなく、憲法第9条はもちろん、第98条にも、あきらかに違反しています。


【その2】
日本は、ビルマ(ミャンマー)の現政権にODA(政府開発援助)を供与し続けてきました。私たち日本国民の税金から莫大なお金を提供してきたのです。しかし現ビルマ(ミャンマー)政権は、非合法に政権を奪い取った軍事独裁政権で(その結果、ノーベル平和賞を受賞したスーチーさんが軟禁されたままです)、国際法上「正統な政府」とは承認されていません(『条約に関する国家継承ウイーン条約』に則っていない)。日本政府は、国際法で認められていないビルマ(ミャンマー)の軍事独裁政権に、私たちの税金からODAという巨額の資金の提供をし、間接的にスーチーさんらへの迫害の手助けをしてきたのです。日本からビルマ(ミャンマー)軍事政権への「ODA」という名の資金供与は、国際法の精神に真っ向から反しています。それは即ち憲法98条にも違反していることになります。


【その3】
2005年1月に、日本政府に保護を求めていたクルド人難民が、日本政府によって強制送還されました。このクルド人は、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が正式に難民であると認定していた人です。国連機関が認定した難民を、日本政府は強制送還してしまったのです。ではなぜUNHCRがこのクルド人を難民に認定したかというと、その理由は簡単です。彼は帰国すると暗殺されてしまうからです。それを日本政府は、有無を言わさず、UNHCRの決定を無視して、彼を彼の国へと強制送還してしまったのです。


『国際難民条約』には、"ノン・ルフールマン"という国際的大原則があって、それは「難民が自国に送還された場合、生命の危険にさらされる可能性がある時には、その難民の命を守るために、けっして送還してはならない」という国際的な大原則なのです(『難民の地位に関する条約』、いわゆる『国際難民条約』第33条に基づく原則)。


しかし日本政府はその国際原則を無視して、すなわちUNHCRの決定と『国際難民条約』を無視して、彼を強制送還してしまったのです。さすがにUNHCRは、この日本政府の非人道的な国際法無視のやりかたに激怒し「日本政府はあきらかに国際法違反を犯した。これは前代未聞の蛮行だ」と、日本政府のこの措置を国際社会全体に向かって声明を発して非常に激しく、厳しく非難・追及しました(UNHCR Press Releases 18 January 2005, etc.)。これほどまでにUNHCRが激怒したことは、いまだかつてない。とのことだそうです。


日本政府のしたことにUNHCRが激怒するのは当たり前です。日本政府のしたことは、国家による殺人的行為なのですから。それはあきらかに『国際難民条約』違反であり、すなわち憲法98条違反なのです。


このように、最近の事をみても、日本政府は『国際法』に何度も違反してきました。すなわち何度も憲法98条に違反してきたのです。そして、挙げ句の果てには、国連機関であるUNHCRを、いまだかつてない程に大激怒させたのです。


このように国連機関を大激怒させておきながら、日本政府は、国連安保理常任理事国になりたいなどと言ったのです。恥知らず・恥さらしです。日本政府は、国際社会上で日本国民に恥をかかせないでいただきたい。


最後に、『国家責任に関する暫定条文草案』(国連国際法委員会第53会期採択)の第1章第1部第1条(すなわち、しょっぱな)では、「国家のすべての国際法違法行為は、その国家の国際責任を課す」と厳しく断じています。つまり、日本国の国際法違反の責任はすべて日本国にある(いかなる言い訳も許さないぞ)と、『国際法』は厳しく断罪しているのです。


これらの、日本政府による国際法違反の悪行三昧をじっと見つめていると、


(1)国際法はおろか、憲法すら守れないから、その憲法を守る能力がないから、最初から憲法など守る気がないから「自分たちが守りやすいようにレベルを下げて、憲法を劣化させたもの」に変えようとしている、のでしょうか。


(2)そして、アメリカ社会の軍産複合構造に倣って、日本も、戦争をすることによって、日本国内の大規模産業に利益を誘導し、他国の利権を奪いたいがために、いまの憲法を「戦争ができるように」変えようとしている、のでしょうか。


まさに、アメリカの「軍産複合体」という狂暴かつ醜悪な社会構造への「右へ」倣えですね。これらの政府の悪事を見ていたら、上記の2つの本音が透けて見えてきます。


戦争は「絶対悪」です。


イラク開戦の時、米英首脳そして日本政府首脳も、口を揃えて言いました。
「犠牲者は最小限に」と。


しかし、本来は「1人の犠牲者も出してはならない」はずです。いかなる人間にも、たとえそれが一国の首相・大統領であっても、彼らに「人を殺す権利」は、与えられていません。彼らは、いつ、誰から、どこから、どのようにして「人を殺す権利」を手に入れたのでしょうか?


彼らにはその説明責任があり、贖罪義務があります。彼らは殺人者です。殺戮者です。戦争の別名は「大量殺戮」以外のなにものでもないのですから!


『国連憲章』で「先制武力攻撃」を厳しく禁じているのは、「全ての国家が先制攻撃を仕掛けなければ、戦争になる筈はない」という理念からなのです。そして『国連ユネスコ憲章』は、次の言葉ではじまります。


「戦争は、人の心の中に生まれるものだから、人の心の中に平和の砦を築かなければいけない」


憲法を変え、国民の心の中に「私たちは戦争もできるんだぞ」という意識を芽生えさせようと企む政党・政治家は、絶対悪そのもの、悪の権化と言えるでしょう。(了)


【参考とした資料】
1.『六法全書 2003』三修社 2002
2.『解説 条約集』三省堂 2003
3.「UNHCR Press Releases: 18 January 2005」UNHCR, Genve, 2005



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