クラウディオス・アイリアノス(A.D.200年頃)という著述家が記した『Varia Historia』(原訳「多彩な歴史」:日本語訳「ギリシア奇談集」)という書物を読んだ。そこに、以下のような、短いエピソードが収録されている。
「聖物窃盗の罪で死刑にされた少年のこと」
アルテミス神像の頭に載せてあった冠から、黄金の葉が1枚滑り落ちたのを、少年が拾った。しかしちょうどその少年がそれを拾ったところを人に見られてしまった。そこで、その子に対して、聖物窃盗犯として法廷が開かれた。法廷での陪審員たちは、いろいろな玩具やカルタ、それと例の黄金の葉をその少年の前において見せたところ、少年は、またもや黄金の葉に手を出した。陪審員たちは、肩を落とした。そしてその子は聖物窃盗犯として(市民投票による判決を経てから)処刑した。このことは、結果としては、その子の年齢のことは斟酌せずに、その子の犯した罪そのものを罰したのである。
古代ギリシアにおいては、誰でも神殿内に自由に出入りはできたようですが、しかし、神職や神官以外は(特別な祭儀の時を除いては)、神殿内陣(神室)内の神像や、その装飾物に触れれば(見るだけなら良い)、基本的には死刑だったようです(もちろん、法廷の場で弁明の機会は与えられ、情状酌量の余地もありましたが)。
しかし、上記の話の場合には、少年が偶然に、滑り落ちてきた黄金の葉を拾ったということで、なんとかこの子に罪を負わせずにおこうと、陪審員たちは、少年の興味をひく、さまざまな玩具やカルタなどを見せて、少年に(ある意味情状酌量というか)、罪を負わせないでおこうという良心が、法廷の場に働いたようです。しかし、少年は再び黄金の葉を手に取ったので、これでは仕方がないと、法に則って、処刑をしたということです(もし、これが少年ではなく、大人であったなら、即、死刑判決が出ていたでしょう)。
古代においても、このように、ギリシアのような文明社会(紀元前500年から紀元前400年頃)では、少年の罪に対しては寛容で、なんとか無実に近い形にしてあげようという「人間としての良心、心のあたたかさ」が働いていたことが読み取れます。
しかし同時に、かといって、法を曲げてまでの裁量はしない。少年であろうが大人であろうが、犯した「罪」に対しては同じ「罰」を受けさせるのが「法の下での万人の平等」であるという古代ギリシアの絶対的な法秩序も存在していたわけです。
そのジレンマのなかで、法廷の陪審員たちは、苦悩し、さまざまな玩具やカルタなどを用意したのでしょう。
私は、現在の日本において、単純に「少年法を厳罰化すればいい」という短絡的な考えかたには反対です。
しかし、犯してしまった罪の重さは、少年であろうと成人であろうと、同じものなのですから(少年だから「犯した罪」は軽いというはずはない。受ける「罰」は軽くとも)、そのことを少年に教育し、反省と贖罪をさせて、立派な社会人として更正させられるだけの「教育」が、この日本の社会には、まだまだ不十分なような気がしてなりません。
更正施設へ行く前に、罪を犯す前に、その歯止めとなる社会教育システムも不十分ではないかと感じています。
同時に、国家としてハード面(法律や更正施設)をいくら整えても、ソフト面(更正施設での教育・反省・贖罪・更正をさせるプログラムシステムと、そのプロセス、収容者とのコンセンサス、および被害者とその関係者の人権と生活を法律で手厚く保護するシステム)が充実していなければ、やはり少年犯罪をとりまく様々な問題(被害者感情・加害者感情・社会感情)は、「人間としての良心、心のあたたかみ」のレヴェルにおいて、納得できるものにはならないのではないかと思う今日このごろです。
2007年4月18日に、少年法改正案が、狂気の安部政権によって野党大反対のなかで、衆議院法務委員会で強行採決された(なんと、この週には、3度もの強行採決が繰り返された)。とてもじゃないが「人間としての良心、心のあたたかみ」を感じさせるような法案などとは、とうてい思えない。いまいちど、振り出しに戻って考えなおすべきではないでしょうか?
【参考資料】
※私は、原書に近い文献を参考としましたが、日本語訳では、
松平千秋・中務哲郎 訳『ギリシア奇談集』 岩波文庫 2003
に、もう少し簡単な訳文が紹介されています。
さて、明後日(8月15日)は、終戦記念日ですね。我が国が、新しく民主主義国家への第一歩を歩み出した日です。そこで、「民主主義」の「原点」といわれている、いまから約2500年前にアテネで行われた「人類史上最高の演説」と言われている名演説のエッセンスの部分を紹介させていただきたいと思います(以前に、新聞紙上で掲載していただいたものに加筆したものです)。
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