先日、建築史を専門にしている友人と法隆寺を訪れました。
私は、法隆寺の五重塔を見るたびに、鳥肌が立つぐらいに、とても感動します。
諸説はあるにせよ、少なくとも千数百年以上もの間、その塔はあの地に、あの姿のままで、凛として立ちつづけているのです。
太い柱、分厚い壁、総重量が数十トンにも及ぶ重い屋根瓦。現代の建築とは真反対の建築物です。
阪神・淡路大震災では、奈良県でもたいへんな揺れがあったようです。あの大震災で、阪神地方では、現代の建築が、何百棟と壊滅し、ゴミとなりました。
しかし法隆寺の五重塔は、びくともしなかった。建築基準法も何もなかった、千数百年も前に建てられたあの塔。
見た目には、どう考えても、大きな地震が起きれば、すぐに倒れてしまいそうな、屋根が重くて細長い、あの木造建築物が、千数百年もの間、何事もなかったかのように、いま、目の前に、すっくと立っている。幾多の大きな地震を経験してきたであろう、あの塔が、いまもそのままの姿で、凛として立ちつづけている。これは、まさに奇跡であり、驚異ではないでしょうか?
今年の夏に、我が家の扇風機が1台故障しました。7年前に買ったものです。首振りができなくなってしまったのです。メーカー系列のショップに持ち込んで修理を依頼したところ「修理されるよりも、新しいものを買われたほうが、断然安いし、性能もいいですよ」と言われ、結局、新しいものを1台購入しました。
しかし、10年前に骨董屋で購入した、昭和2(1927)年製の三菱の扇風機は、いまも何の不具合もなく、きわめて快調に動いています。真っ黒で、物凄く重たい機械です。リモコンも、タイマーも、お休み設定もついていない、風力3段切り替えだけの扇風機です。80年間故障なしです!
5年前に買ったDVDプレーヤーが、故障(トレーの開閉ができなくなった)ので、いま修理に出しています。たった5年で故障してしまいました。
しかし、いまから20年ほど前、まだバブルの余韻が色濃く残っていた頃に購入した、明治38(1905)年英国製の、大きなラッパのついた手回し式蓄音機は、今日も順調に動いています。102年前の機械が、いまも、全く何の不具合もなく、きわめて快調に動いているのです。蓄音機専用の鉄針を購入するのは高価でたいへんですが、レコード(SP盤)じたいは、近所の中古レコード店で1枚800円前後で売っています。クラシックのSPレコードを収集し、この蓄音機で聴くことが私の趣味の1つです。
昭和初期の扇風機にしても、明治の英国製の蓄音機にしても、その調子を整えてやるために、定期的に油をさしてやったり、定期的に通電してやったり、蓄音機の場合には、ゼンマイの巻き具合を微調整したりと、そういったメンテナンスには多少の手間がかかり、神経を使いますが、そうして愛情をもって手入れをしていれば、百年以上も故障することなく動いているのです。
いまでも、ヨーロッパ各地のローカル鉄道では、100年以上前に製造された蒸気機関車が現役で活躍しています。しかし鉄道ファンの友人に聞くと、最新の技術を駆使した、JRの高性能・最新型の電車の寿命は、せいぜい30年程度だそうです。1輌に数千万円から場合によっては1億円近くもする車両が、たったの30年程度でスクラップになってしまうのです。
法隆寺の五重塔と現代の建築物
昭和初期の扇風機と現在市販されている扇風機
5年で故障したDVDプレーヤーと明治の英国製の蓄音機
100年前の現役蒸気機関車と、寿命がたった30年の最新型の電車
これらから見えてくる事は、現代の社会構造が、現代の産業構造が、資本主義の精神に則って、製造の効率化と極限にまで切りつめるコスト削減に突っ走った結果、故障しやすく、すぐに買い替えなければいけないような、安易で軽薄なモノばかりを生産し、世の中に氾濫してしまっているといえます。
つまり、生産者は、故障してゴミになり易いものばかりを凄まじい勢いで大量に製造して売り飛ばし、それを購入する消費者も、購入したモノが故障すればすぐに、また新しく故障しやすいモノを買い求める。
その結果、故障したゴミばかりが氾濫する社会になってしまっている。さらに、その故障したゴミをリサイクルするために、国家は消費者に経済的負担を強いている。
最初から、きっちりと手間をかけて故障しにくいモノをつくればいいのに!
多少の手間とコストをかけてでも、丈夫で長持ちし、故障をしない製品をつくることこそが、現在の産業社会に求められている使命であり、地球上から不必要なゴミの氾濫を防ぎ、地球環境に優しく、結果的には、人の財布にも優しい成果を生むのではないでしょうか?
私は、いちど、昭和初期の扇風機と明治の英国製の蓄音機の、それぞれの機械の部分が隠されている箱のフタを開けて、中を覗いてみたことがあります。とうぜんプラスチックなどは、どこにも使われていない(あの時代にプラスチックはなかった)。ぜんぶ、頑丈な鉄や真鍮の部品を、きわめて単純に組み合わせているだけの、簡単なしくみでした。
今年の夏に、首が振らなくなった我が家の扇風機は、首振り部分のプラスチック製の歯車が擦り減ってしまったことが原因だとのこと。では、その擦り減った歯車だけを新しいものに取り替えれば良いのではないかと、ショップの人に言うと、モーター部分の電子制御板と複雑に組み合わされているので、結局モーターごと取り替えなければいけない。それだったら、新しい製品を買うほうが、断然安いし性能も良いとのこと。。。
昭和初期の扇風機のように、鉄や真鍮の歯車が、ごく単純に組み合わさっているだけなら、ちゃんと定期的に油をさし、通電しておいてやれば、自然と油が機械全体に行きわたり、金属なので、擦り減るなどの心配の必要もありませんね。蓄音機のゼンマイにしても然り。
行き過ぎた資本主義。歪んでしまった資本主義。これ、すなわち、極限にまで切りつめた製造コストの削減と製造工程の効率化によって、人員整理・不安定雇用等がなされ、格差社会が生じている。商品は、表面的には「最新性能」を謳いながらも、安価な製造コストと、人の手を必要としない(いわば人間排除の)安直な機械(コンピュータ・ロボットに頼りきった)製造ラインによって製造し、消費者には高価な値段で売りつけ、そしてその中身はといえば、たった数年で故障してしまう。
消費者も「壊れたら、修理するより買い替えたほうが安い」と考えがち。そうして、社会には、壊れたモノが氾濫し、地球環境・社会環境を脅かしている。
生産者や販売者は「地球環境に優しい最新性能」と謳いながらも、その裏では極限にまで製造コストを削減し、その結果、壊れやすくてゴミになり易いものばかりを凄まじい勢いで製造し、世界中に流通させている。これ、じつは地球にも、人にも、きわめて厳しいのでは?
「ほんとうの」地球に優しく、人にも優しいモノとは「丈夫で長持ち」。これがいちばんだと思う今日このごろです。
再び思い起こしてみましょう。
法隆寺の五重塔と現代の建築物
昭和初期の扇風機と現在市販されている扇風機
5年で故障したDVDプレーヤーと明治の英国製の蓄音機
100年前の現役蒸気機関車と、寿命がたった30年の最新型の電車
現代社会には、安易で軽薄で、見た目だけが良くて、その中身は壊れやすいモノ、壊れたモノ(すなわちゴミ)が氾濫しているのではないでしょうか。
そして、それは「モノ」に限らず、国際関係にしても、政治にしても、経済にしても、人間関係にしても、そして社会構造そのものにしても、その風潮は、「砂上の楼閣」。すなわち、安易で軽薄で、見た目だけが良くて、その実態は、基盤となる理念や社会機構(プロセスやコンセンサス・コンプライアンスへの対応性)がグラグラとぐらついて壊れかかっているのではないでしょうか。
昨今の日本における高級官僚の腐敗(その実態は低級官僚なのであった!)、一連の政治的スキャンダルや、2つの大きな政党間の大騒動、その陰に暗躍する、大本営さながらの胡散臭い、低俗下劣な情報操作の輩とそのメディア企業。まったく、「国民主権」「主権在民」という民主主義の根本理念が完全に忘れられ、壊れかかっている。と私には思えてきます。
「資本家主権」「主権在無人」の「人間性不在」の今の日本の社会風潮には、もう、うんざりです。
私は、この冬も、昨年の冬に引き続いて、自室では、できるだけ石油ファンヒータやエアコンを使わないように心がけ、厚着をし、そのうえに綿入りハンテンを着て、火鉢によりそって過ごしたいと思っています。換気だけは充分に注意して!
「丈夫で長持ち!」モノも人も、そして人間関係も、そうありたいものですね。(了)
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