なお、判決文そのものはA4版20ページの紙原稿なのですが、それを全ページ画像化したものが、拙ブログがいつもお世話になっています「護憲+」グループのごまめの翁さんのブログで公開されています。
判決文原本をご覧になりたいかたは、以下のごまめの翁さんのブログをご訪問ください。
◎ごまめの翁さんのブログ 「護憲+グループ・ごまめのブログ」
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◎この裁判に関するごまめの翁さんの記事(その1)
「08年8月19日 イラク派兵差止京都原告団控訴審」
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◎この裁判に関するごまめの翁さんの記事(その2)
「イラク派兵差止京都訴訟・高裁判決文その2」
http://blog.goo.ne.jp/gomame54321/
e/864244d7d1ec4ec44ed84e5aae0b5769
ごまめの翁さま、ほんとうにご苦労様です。ありがとうございます。
以下、判決文要旨です。
1.控訴人 : イラク派兵差止訴訟京都原告団
2.訴訟代理人弁護士 : イラク派兵差止訴訟京都原告代理弁護団
3.被控訴人 : 国
4.被控訴人代表者 : 法務大臣 鳩山邦夫
5.指定代理人 : 後藤信宏はじめ15人
6.主文 :
本件控訴をいずれも棄却する。
7.控訴人請求の要旨(平和を求める良心の侵害):
「平和を求める良心」とは、日本国憲法前文、9条、13条、19条によって保障された具体的な権利である。
端的に言えば、いかなる戦争もしないという憲法自身が採用した憲法的確信、日本国憲法の根本規範に対する信頼である。
このようにして導かれる平和を求める良心は、日本国がその信頼に反する行為をした時点で直ちに侵害される。
自衛隊のイラク派遣は、控訴人らが有する平和を求める良心を現に侵害し、またはその内実たる生命権そのものを危機にさらしているものである。
8.被控訴人の主張の要旨
自衛隊の撤退及び派遣禁止の請求に係る訴えは、法律上の争訟に当たらないから、不適法である。
このような訴えは、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争ではなく、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たらない。
控訴人らの慰謝料請求は、主張自体失当である。すなわち控訴人らが被侵害利益として主張する平和を求める良心は、国民個々人に保障された具体的な法的権利ではなく、国家賠償訴訟法上保護された利益ではない。
9.原判決(京都地方裁判所)の理由の要旨
自衛隊のイラク派遣は、イラク特措法の規定に基づき防衛大臣に付与された行政上の権限で公権力の行使を本質的内容とするものと解される。
控訴人らは、被控訴人に対し、上記のような私法上の給付請求権を有するものではないから、訴えは不適法である。
自衛隊のイラク派遣により、控訴人らが具体的権利ないし法的保護に値する利益を侵害されたとは認められない。
平和を求める良心は、具体的権利ないし法的保護に値する利益ではない。
10.当裁判所(大阪高等裁判所)の判断
原審同様、自衛隊の撤退及び派遣禁止の請求に係る控訴人らの訴えはいずれも不適法であるから却下すべきものであり、慰謝料請求は理由がないから棄却するべきものであると判断する。
平和を求める良心については、良心に対する憲法上の保障は、国家が良心の内容自体やその実現を保障するというものではなく、そのような良心を持つこと、そしてその実現に努めることの自由を保障する、すなわち「良心の自由」の保障である。
平和を求める良心の内実たる生命権の危険については、控訴人らは、英米軍の戦争行為に荷担する兵站行為である自衛隊のイラク派遣によって、平和を求める良心の内実たる生命権そのものが危険にさらされているとも主張する。
控訴人ら個人の生命権に対する現に在る具体的な危険とまで捉えることはできない。
11.当裁判所(大阪高等裁判所)における判断のまとめ
控訴人らの上記請求は、結局のところ、控訴人ら個人の具体的な権利・利益に直接かかわらない事柄に関し、このような訴えは、具体的な権利義務ないし法律関係に関する訴訟であるということはできず、法律上の争訟であるということはできず、法律上の争訟には当たらない。
したがって、自衛隊の撤退及び派遣禁止の請求に係る訴えは、いずれも不適法であるから却下すべきものである。
控訴人らの慰謝料請求については、慰謝料請求の原因として控訴人らが主張する損害は、自衛隊のイラク派遣により、控訴人らの有する平和を求める良心が害されたことによる精神的苦痛である。
「平和」とは、理念ないし目的としての抽象的概念であって、多様な意見を尊重する民主制の下においては、平和を実現する手段、方法についても様々な意見があり、その具体化は、議会制民主主義の過程を通じて図られることが予定されているのである。控訴人らの主張する平和を求める良心の侵害による精神的苦痛は、結局のところ、間接民主制の下で、国民の代表機関の多数意志によって決定された国の施策が自らの信条ないし信念、あるいは憲法及び法律の解釈に反することによって受ける精神的苦痛にほかならない。
こうした意味で、すなわち控訴人らの固有の信条ないし信念に基づく内心の感情が害されたにとどまるものであり、これをもって、権利侵害というべき人格権の侵害があったとまでの評価をすることはできない。
12.裁判官
大阪高等裁判所第4民事部
裁判長裁判官 : 小田耕治
裁判官 : 富川照雄
裁判官 : 小林久起
【社会学の視点からみたこの判決についての見解】
今回の判決は、かつて、自衛隊の前身である警察予備隊が創設された際に「警察予備隊の創設は憲法違反」だとして、最高裁へ違憲審査を求めた(日本史上初の違憲審査)、旧社会党委員長の鈴木茂三郎氏に対して下された判決から、何ら進歩がみられない。
裁判所が判例主義に基づいて判断をすることは周知の事実であり、また日本の違憲審査制は、ドイツの憲法裁判所における抽象的(積極的)違憲審査制ではなく、原告側に実際に法的・実質的損害が生じていない場合には、基本的に「審理はしない」という、米国路線の付随的(消極的)違憲審査制を保持していることも周知の事実である。
このような前提があるにもかかわらず、鈴木茂三郎氏と同じ轍を踏んでいる今回の判決をみたとき、そこには原告代理弁護団の勉強不足も甚だしいと言わざるを得ないのではなかろうか。
原告代理弁護団は、今回の判決に一定の価値を認め、評価をし、満足をしている見解を示しているが、これは自己満足というより他ないであろう。鈴木茂三郎氏の時代からなんらの進歩もみられない。
もう少し違ったアプローチもできたはずである。
たとえば、社会学的見地からのアプローチである。
原告団は「平和を求める良心を国によって侵害された」として提訴しているが、この主張だと、法的根拠による立証は難しく、きわめて曖昧な抽象的概念であるので、現在の付随的(消極的)違憲審査制を保持している我が国では、棄却されることは、最初から目に見えていたのではないか。
社会学者の視点からみれば :
1.憲法をはじめとした民主主義国家におけるすべての国内法、命令、詔勅、条例、その他これらに準ずる一切の取り決めは、すべて国家と国民との社会契約によって締結された「契約書」であると、社会学者は認識している。
2.国家は社会権的市民(すなわち国家を構成している国民)との社会契約を遵守する義務がある。
3.今回の自衛隊のイラク派兵は、国家の社会権的市民に対する社会契約違反である。
4.よって、国家は社会権的市民に対して、契約違反、すなわち債務不履行の罪によって、その損害を賠償する責任を負う。
という論理が成り立つ。この論理は、王権神授説を否定した、社会学・社会哲学ではもっとも古典的かつ基礎的な論理である。
よって、社会学の視点で見れば(少々強引ではあるが)、自衛隊のイラク派兵は、国家による国民に対する契約違反であるので、国家は国民に対してその損害を賠償する責任がある、という論法になる。
原告代理弁護団の「平和を求める良心を国によって侵害された」という論法よりは、社会学・社会哲学でのこのような論法のほうが、きわめて具体的であり、損害賠償を求めやすいのではないだろうか。
おそらく弁護士諸君は、法学しか勉強していないために視野が狭く、社会学や社会哲学の知識はないのだろう。その結果として、弁護士諸君の論理は鈴木茂三郎氏の時代から何らの進歩もしてないのだと思われる。社会は、そして社会学は、日々社会の変化と人間との関係を研究の対象としているので、かつての時代からは甚だしい進歩を遂げているというのに。
しかし残念な結果である。いま少し、原告代理弁護団がもっと幅広く勉強をしていれば、おなじ敗訴であっても、もう少し積極的・建設的な意見を高裁から引き出せたのではないだろうか。
法学的な論理ではなく、社会学・社会哲学的な論理を用いていれば、もう少し進歩的・建設的な見解を高裁から引き出せたのではないかと悔やまれる結果である。ただ、弁護士諸君が、社会学の論理を、論理的にも心情的にも理解・納得できるかどうかは甚だ疑問ではあるが。(了)
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